「THE COVE」を観てきました
先日試写会でドキュメンタリー映画「THE COVE」を観てきました。
#当サイトでは元々ブログ形式で硬 軟・公私織り交ぜた内容をつらつら書いていた経緯がありますので、今回も本題と関係ない事を書きます。
和歌山・太地(たいじ)で古くから行われているイルカ漁を巡って、ひとりの元・イルカ調教師を中心とする愛護集団が、イルカ漁をやめさせようという試みのもと、漁の実態を自分たちの主張とともに映像に納めて公開したドキュメンタリー映画「THE COVE」。
色々物議を醸している本作ですが、私も「見てから自分なりに評価したい」というわけでマスコミ向け試写会にお邪魔させて頂きました。(手引きくださった皆様ありがとうございます)
だいたい予想通りの展開でしたが、ネットなどで順次公開されるようで、感想もたくさん出てくると思いますので、私も具体的にどこがどうということを備忘的に書いてみます。
なお、ネタバレありですのでご注意ください。
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前置き
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■本編を観る前に得ていた情報:
・いくつかの映画館での上映中止の真相
・食料となる動物の実態動画をいくつか
・茂木健一郎氏のクオリア日記「語り合おうよ」
■上映中止騒動
この映画を配給するアンプラグド社は、「多くの日本人に見てもらい、それぞれで考えてほしい」というスタンスで日本での上映を進めています。
#個人的には同社配給の「インスタント沼」とか好きですし、アンプラグド社は特に反捕鯨ではなく、あくまで作品のいちジャンルとしてTHE COVEを扱っているのだと見受けます。
これに対して日本の「主権回復を目指す会」が、配給元や映画館にシーシェパードばりの実力行使を行って上映中止に追い込みました。
http://www.shukenkaifuku.com/KoudouKatudou/2010/100419.html
http://www.shukenkaifuku.com/KoudouKatudou/2010/100511.html
この団体の活動ってTHE COVEを見ているようで笑えます。
■情報操作と演出
特にメディア系の方には言わずもがなの感もありますが、我々は日常的に、情報操作や演出を行って生きています。
言ったほうがいいこと、言わないほうがいいことを選んだり(情報操作)、ファッションやインテリア、言葉などに気を使ったり(演出)。
つまり、広義での情報操作や演出は場面によって必要であり、それ自体悪いものではありません。
ただ、同時に情報リテラシー(情報への判断・対応能力)も持ち合わせていないと、ときに騙されたり誤解によって人間関係が壊れるなど、損をしたり不利な状況に陥ったりもします。
また、映画であれば当然ながら観客に感情移入をさせるのが主眼ですから、その点を踏まえて見る必要があります。
■一緒に見るべき資料
THE COVEへの反駁材料ということで、さしあたって動物と食を取り巻く人間の行為に関連する動画や資料などをいくつかピックアップしました。
<事前に見ていたもの>
言わない、見せないことに目を向ける…
●映画「サンキュー・スモーキング」
・公式サイト
・Wiki「サンキュー・スモーキング」
●YouTube「イルカ漁を批判する反日映画 The Cove を論破!」
THE COVEでは、イルカの大量屠殺(とさつ)で真っ赤になった海をエンディング付近で盛大に映し出すことで「大地の漁師たちはこんなに残虐なことをしている」とアピール。可哀想なのはイルカだけ?
※以下の映像は、動物の屠殺や過激な飼育を扱ったものですので注意
●Undercover Investigation at Hy-Line Hatchery
〜工場で生きたまま粉砕器に放り込まれるヒヨコ
→THE COVEのニュースで木村太郎氏が反論のため引き合いに出した話の動画。
#卵を産まない雄はその場で殺処分
●フォアグラができるまでアヒルのワルツver.
→漫画「美味しんぼ」のエピソードで取り上げられていて興味を持ったもの
#「無理矢理太らせた不健康な鳥の肝臓より新鮮なアンコウの肝のほうがうまい」
という話
#リンク先の動画では、ホースで強制的に餌を“注入”しています。
#今現在もこのような方法を行っているかは未確認です
<THE COVEを見た後に探してみたサイトやYouTube動画>
●命の食べ方 OUR DAILY BREAD Nuestro Pan de Cada Dia
●生命と食を考える-1
●生命と食を考える-2
●生命と食を考える-3
#良心を持って食材の生産加工に携わる方々は、色々思ったり考えたりしています。
★反日盗撮映画 「The Cove(ザ・コーヴ)」 がアカデミー賞を受賞! その呆れた内容とは!?
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本編<ネタバレ>
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■総論
THE COVEは「偏狭なエゴ思想家たちが大層な金と時間をかけてつくった偽善のプロパガンダ映画」。平たくいえば、イルカに傾倒した愛好家達が「かわいくて知的で崇高なイルカを虐殺するなんて野蛮なことは実力行使でやめさせる!」と、自分たちの正当性と現地の漁師達がいかに間違っているかをアピールするための作品です。
感想も観る前の予想とほぼ同じでした。
ただ、イルカ漁そのものや水銀問題(後述)などについてはこの映画を通して知ったことで、特に水銀については事実なら大きな問題でしょう。地元でも問題になっているようですが、隠蔽や法のすり抜けだったりするならこれはTHE COVEの指摘の通り。
捕鯨についても、なぜ今も続いているのかという根本的な問いが浮かんだり(本編中では「外国の指図は受けない、という帝国的なプライドだけで続いている」と分析)。
そういわれると確かに捕鯨はなくなってもいいのでは、とも思いつつ、数多の商売の一つとして地域に受け継がれてきたのなら、それで生活している人達にとっては必要なものなのかもしれないとも考えたり。
生息数や種の生態状況といったことなども関係するのでしょうけど、まあそもそも私などがどうこういう話でも、まして少なくともイルカ愛好モンスター団体から咎められるものでないことだけは確かだと思います。
■疑問/問題点
●偏狭な部分=「イルカだけ特別」
…これは見た方ほとんどが共通して挙げる点。まあこの映画や捕鯨、その他世の中のヒステリックな人や団体(モンスター○○とか一部の過激な○○愛護団体)は、ほぼこの文脈ですが、
当の本人達は至って本気だというのが厄介であり、恐ろしいところ。
なかでも、普段からイルカと戯れているというフリーダイビング(素潜り)世界一の夫婦が駆り出されるんですが、この奥さん(ダイビングファンの方はよくご存知なのでしょうか)はイルカに神秘性を感じ、慈しむ存在だと思っていて(私もイルカの能力などの話は聞きますし、確かに優れてはいるでしょうけど愛情では牛や豚を育てている方も一緒だと思いますが)、その人なんかは劇中で唯一イルカの無惨な姿に涙を流します。
個人的にはこの方が一番サムいというか、盲信の象徴という感じで特に嫌悪感を感じました。ああいう立場の人だからこそ、もっと多角的に、世界の食料事情や相手の立場などを冷静に踏まえてたりするんじゃないかという勝手な期待が裏切られたショックもあるかもしれません。
●盗撮
…THE COVEのもう一つの問題点は、盗撮映画ということ。
物語全体の構成が盗撮の正当性をアピールする筋書きになっていて、起承でイルカがいかに特別か、また町民や警察が敵であることの説明を行って、「仕方がないので盗撮した」という流れで見せ場に転じ、クライマックスの「流血の惨状」で結んでいます。
アカデミー賞ドキュメンタリー賞の受賞や海外での評価には(監督自らも言っているように)「オーシャンズ11のようなスリリングな展開」という部分が少なからずあるようですが、日本のテレビでも例えばブラックな会社や組織に潜入して盗撮したものなどがニュースや報道で使われますので、ここまで大掛かりに「大スクープ」を演出すれば「よくやった」という見方も理解できなくはありません。
しかしこの場合は事実を客観的に報道・ルポしているわけではなく、彼らは脚本、脚色を用いた興業(料金を徴収して上映するエンタメ)作品をつくったわけで、加えてひとつの思想を正当化・啓蒙するためのプロパガンダですから、盗撮が評価されるべきものではありません。
禁止区域に入り込んだり、ラジコンヘリやILMの技師を巻き込んだ精巧な隠しカメラなど、豪華な機材でやりたい放題。
これが自腹でつくって無料で世界中に公開されるような映像だったら世界が評価するのも100歩譲って理解しますが、結局は「イルカをダシにひと儲け」するために無断で撮影された、と見てもおかしくないわけで、そうなると完全にただの撮られ損ですからね。
反対意見の人にとっては、料金が必要だと彼らの収入源を増やす(イルカ保護に回されるかもしれない)=敵に塩を送るようなものなので見ない人も出るでしょうし、そもそも彼ら自身が「イルカの虐殺」を見せ物にして銭を稼いでいるというのはどうなのか、ということです。
●水銀問題
本編では、「太地で捕れるイルカは基本的に水銀含有量が高く健康に悪影響」ということを言っています。それなりの調査結果もちりばめ、地元の議員にも水銀が心配なのでイルカの食用に反対している人がいるなど、ある程度の時間を割いて水銀の危険性を訴えていて、これはこれで日本の中でも問題になるとは思います(なっています)。
日本の政府や見えないチカラ(自治体や業界など)、地元の一部なども100%シロなんてことはなくて、本当に危険かどうかではなく法に触れるか触れないかという観点で物事を扱っている部分もあるだろうからそれはそれで問題提起としてはよかったのかもしれません。
ただ、じゃあ「水銀が含まれていないなら食ってもいいのか」ってことですよ。
どっちにしたって彼らはイルカが一頭でも殺されるのは嫌なんだから、副産物として取って付けたようなやり方で水銀のことなんかを混ぜるのは論点のすり替えにしか映らない。
水銀の危険性を警告したいのならそれはそれで別にやったらよくて、目先を分散させる陽動作戦として使っているところが悪質。
●まとめ
以上、ほかにも論点はあると思いますが、私なりに気になった部分を書いてみました。
私としては、「純粋にイルカ保護を訴えたいなら、無料公開したらどうだ」って感じですかね。話はそこからでしょう。